バルカ城の一室、締め切られて暗闇が広がるそこに、ひとつの人影がうごめいていた。たった一つだけ灯されたろうそくの火が、その人影を頼りなく照らしている。
 人影――サレは、手にした小さな試験管を目の高さまで掲げてにやりと口元をゆがめた。

「あの商人……ガジュマのくせにいいもの持ってるじゃないか」

 街を訪れていたらしいガジュマの行商人から、媚薬を買ったのだ。とはいえかなりの安値だったので、質の悪いものだろう。効果はおそらく、通常のものの半分ほどだ。だが、それでいい。
 ヴェイグは何度サレに犯されても、そのたびに激しく抵抗する。強い媚薬を使えばその心もねじ伏せることができるだろうが、それでは物足りないのだ。サレがゆがんだ愛情を向けられるのは、自分の心を決して曲げない強さを持ったヴェイグなのだから。
 サレは低く笑いながら、媚薬を懐に忍ばせて部屋を出て行った。

 

 

 

 ヴェイグたちはとある町の宿にいた。小さなその町の宿屋はめったに客が入らないらしく、ヴェイグたちは一人一部屋を借りることができた。
 そして町の誰もが寝静まった夜、宿の一室――ヴェイグが眠る部屋に動く影がある。影はゆっくりとベッドに歩み寄ると、懐からガーゼと試験管を取り出した。試験管の中の液体をガーゼに染み込ませ、それをヴェイグの口元に押し当てる。

「――っ!?」

 突然訪れた息苦しさに、ヴェイグが覚醒して目を見開いた。その瞳に映ったのは、窓からの月光に照らされて暗い笑みを浮かべるサレだった。
 サレはヴェイグの口にガーゼを押し当てたまま、新たに取り出した長めの白い布で猿轡をする。さらにサレは慣れた手つきでヴェイグの両手をロープで縛り上げると、ベッドの手すりに結びつけて両手の自由を奪った。

「ん、ぐぅ!!」

 ヴェイグがうめきながら、サレを退けようと暴れる。サレはそれを難なく押さえつけ、耳元でささやいた。

「静かにしたほうがいいと思うよ。今君に嗅がせたのは、媚薬だ。このまま僕が去って君の仲間が駆けつけてきたら、体の熱をどう処理するつもりなのかな? それとも、みだらな姿を見せたい?」

 すると、ヴェイグはびくりと体を硬直させる。動きを止めたヴェイグに、サレはくつくつと小さく笑い声を上げた。

「そうそう。いい子だね」

 サレがそっとヴェイグの頬を撫でると、ヴェイグは瞳に嫌悪感をあらわにしてさっと顔を背ける。それがまた、サレの欲情をあおった。

「ふふ……今夜も楽しい時間を過ごせそうだ」

 サレはヴェイグの体を隠していた毛布を放り投げ、ヴェイグの服に手をかける。それをまくり上げ、あるいはずり降ろして、すらりとしたその肢体に手を這わせ始めた。

 

 

 

 寝ているときに、突然薬品をかがされた。それは媚薬だという。そっちの方面に無頓着というか、あまり多くの知識を持っていないヴェイグでも、その効能くらいは知っている。
 欲情を膨らませ、理性を溶かしてしまうもの。
 しかしどういうわけか、ヴェイグの感情と理性は正常を保っていた。感じるのは快楽ではなく、嫌悪感と吐き気。だが体はしっかりと媚薬の効果を受けていた。全身がどうしようもなく熱くて、奥底がうずいている。サレが手を滑らせるたびに、体は敏感に反応した。

「ん……む、ぅ……ッ!」

 自然とのどから漏れそうになる嬌声を、奥歯をかみ締めてこらえる。それでも抑え切れなかった声が、うめきとなってこぼれた。

「どうだい? 媚薬と言っても、ちゃんとしたものじゃない。闇で流れてる安物の媚薬だよ。完全に欲情にまみれたヴェイグも見てみたい気がするけど、抵抗されたほうがそそられるからね」

 サレがにやりと口元をゆがめ、ヴェイグの胸の突起をつまむ。それだけで、ヴェイグの全身には電気が流れたような痺れが走った。

(いやだ……何で、こんな……!)

 自分の意思とは正反対の反応をする体に、憎しみすら覚える。サレの手が肌を滑るだけで震える体が信じられなくて、だがどうしようもできなくて。体と心がかみ合わないと言うのはこれほど苦しいものなのかと、知りたくもないのに思い知らされる。

「苦しいかい? まだだよ、まだ足りない。もっともっと苦しんで、醜態を見せてくれなきゃ」

 サレは嘲笑しながら、胸を弄んでいた手を下へ滑らせた。ヴェイグのズボンと下着は、すでに脱がされて素肌があらわになっている。
 サレの手がヴェイグの内股を撫でると、ぞわぞわと何ともいえない感覚が全身を貫いた。頭の中では確かに嫌悪を感じているのに、体は火照る一方だ。鳥肌は立つが、それは悪寒からではなく、もっと別の何かによるものだった。その『何か』が何であるか、ヴェイグは考えたくもなかった。

「ぅ……ッ……ンゥ……!」

 息が上がる。暴れて体力を使ったからではない。体はすでに言うことを聞かなくなっていて、拒絶の意を示しているのは首から上だけだ。呼吸が乱れるのは、体の奥底が熱くうごめいているからだ。
 苦しい。どうすればいいかわからない。次第に意識がぼんやりとしてくる。それでも、サレに屈したくないという思いは強く、意識は保たれている。いっそのこと気を失ってしまったりしたほうが楽なのではないかと思うが、それはサレに体をささげるのと同じことだ。それだけは絶対に嫌だった。

「ほらほら、体は感じてるじゃないか。体は素直なんだから、心も素直に反応したらどうだい?」

 サレはヴェイグを嘲りながら、手を足の付け根の中心に移動させる。とたんに、ヴェイグの体中を電流に似たものが駆け抜けた。びくりと体をのけぞらせるヴェイグを見、サレは愉悦に満ちた笑みを浮かべる。

「ほぅら、こんなになって。本当は気持ちいいんだろう?」

 ささやかれた言葉に、ヴェイグは激しく首を横に振った。

「やっぱり否定したね。もっとも、そうじゃなきゃ僕もこんなに楽しめなかったと思うし」

 サレはくつくつと笑いながら、ヴェイグの勃ち上がったソレを掴む手を上下に動かす。たったそれだけの行為で、ヴェイグの頭の中は真っ白になり、激しい衝動が体中を駆け巡った。それをサレは、心底楽しそうに眺めている。

「ィ……アッ……!」

 心は死ぬほど嫌なのに、体は悦んでいる。そのアンバランスがあまりにも苦しくて、ヴェイグの意識は混濁していった。

「何だ、もう降参かい? ダメだよ、まだこれからなんだから」

 サレはヴェイグの性器を掴んでいた手を離し、猛った己を出してヴェイグの割れ目の中心に押し当てる。そして両足を抱え込むと、腰を前に思い切り押し出した。

「――ッ!!!!!」

 ヴェイグが声にならない悲鳴を上げる。というよりも、叫びたくても叫べなかったのだ。仲間たちに知られてしまうからではない。体中の神経が、もう自分の言うことを聞かなくなっていた。
 何度犯されても、挿入の圧迫感は慣れることがない。体の奥底から、強烈な吐き気がせり上がってきた。

「ふ……ん、ムッ……!」

 サレが律動をはじめ、そのたびにベッドのスプリングがきしんだ音を立てる。ヴェイグは瞳から涙をこぼれさせながら、弱々しく首を振った。

「嫌、なのかい? でもここでやめたら、かえって苦しいんじゃないかな? ま、僕としてはその様子を眺めてるのも楽しいからいいんだけど、僕の体が満足してくれないからね」

 サレの腰の動きが激しくなっていく。媚薬の効果なのか、痛みはほとんどなくなっていた。
 静かな部屋の中に、ベッドのスプリングが立てる音と、ヴェイグとサレの息遣いだけが流れる。その小さな音は、外に漏れることはなく、誰かが気づくこともない。
 やがて、サレの動きがよりいっそう大きくなる。それに合わせて、二人の呼吸もスピードを上げた。そして。

「んんっ――!!!!!!」

 サレが頂点を迎えて己の欲情をヴェイグの中へと注ぎ込む。熱いものを流し込まれたヴェイグもまた、絶頂を迎えて意識を飛ばした。

 

 

 

 サレは服装を整えながら、空になった試験管を見つめる。

「それなりに楽しめた、かな」

 満足げにそれだけ呟くと、ぐったりと気を失っているヴェイグを一瞥だけして、宿の窓から月夜の街中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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題名の意味は『薬』…と一言で言っても、麻薬のほうです。
体を治すほうの薬は、『Medicine』だそうですよ。
普通の意味での薬の意もあるみたいですが(エキ●イト翻訳より)

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